きょうの葛藤も、いつかは糧になる。【特集「いまを紡ぐ」#1】

 淡路島の企業経営者の〈現在地〉を見つめる特集『いまを紡ぐ』。

https://tieonawaji.com/n/nb5ec2b6a0806

 第1回目の記事にご登場いただくのは、淡路市の飲食店「まぜそば まるきん」をはじめ、自動車整備・販売やWeb制作、システム開発といった複数の事業を手がける起業家・金岡秀幸さん(かなおか・ひでゆき、33歳)です。

 淡路島で生まれ育ち、東京やスリランカでの挑戦を経て、現在は故郷を拠点に事業を行う金岡さん。
人懐っこい笑顔が印象的で、いつもムードメーカーな存在ですが、いまの自らのあり方について、葛藤があるようでした。

Profile 金岡秀幸(かなおか・ひでゆき)
1992年、淡路市志筑出身。地元の小中学校を卒業後、島内で漁師や工場勤務を経験するも長く続かず、しばらく職を転々とする。20歳で初めて読んだ自己啓発本に感化され、レストランで働き始め、接客や営業の基礎を学ぶ。その後、スリランカで起業を模索するも叶わず、東京で営業会社を設立。2022年に淡路市志筑で「まぜそば まるきん」を開業し、現在は複数の事業を手がける起業家。


◼️独立=自由。そんな理想と現状のギャップ。

 「正直いま、モチベーションを見失ってるっすね」

 淡路島で4つの事業を回し続ける金岡さんは、自身の現在地についてそう語る。
午前は車屋に出勤し、昼は「まぜそば まるきん」の厨房に立つ。夕方から束の間、家族と過ごし、夜になると、オンラインでシステム開発やWeb制作の会議に入って明け方まで制作作業に打ち込む。睡眠がわずか数時間になることは日常茶飯事だ。

 独立したら自分の時間が増えて、家族ともっと過ごせるはず──。
そんな理想を抱いて起業した。

 だが、今の現実は真逆。もといた仲間は別の道に進み、気づけば一人で複数の事業を抱え込むことになり、自由な時間は失われていた。

 「今は正直、自分で起業したのに、自分が会社の歯車みたいになってるなって感じることさえある。
何を目的にして、どんな理想を抱いてこの世界に飛び込んだのか、わからなくなってるっていう感覚かなあ」
金岡さんはあくまで表情は明るいまま、率直な気持ちを漏らす。

 ただ、そんな現状認識の中にありながらも、金岡さんは立ち止まろうとはしない。
それは、これまでの様々な経験から、今の状況さえもいつかの糧になることを知っているからだ。


◼️転んでは立ち上がる、を繰り返してきた。

 淡路市志筑で生まれ育った。幼い頃は水泳に打ち込み、地域のサッカークラブや相撲大会にも挑戦する活発な少年だった。中学ではサッカー部に入り、遅刻はしても無欠席を貫いた。
だが3年生で部活を引退した頃から、いわゆる「ヤンチャ」なグループに属するようになり、勉強も疎かになった。高校は入学したものの、長くは続かなかった。やりがいを見出せず、漁師、工場、車屋と職も転々とした。
ふと、遊び仲間は、ヤンチャをしながらもきちんと働いていることに気がついた。そんな彼らと自分を比べて劣等感に苛まれた。鬱のような状態になり、18歳で部屋にこもるようになった。

 カーテンを閉め切った暗い部屋で現実から目を背ける日々。
そんな自分に、さらに劣等感が募った。

 転機となったのは、母が差し出した一冊の本だった。タイトルも内容もはっきりとは覚えていないが、自己啓発のような内容だったと思う。
なんとなく読み進めるうち、そこに書いてある内容の「全部が自分に入ってきた」。

 「俺ってもともと友達多い方やし、接客できるんちゃうか」

 そう思い立ち、20歳から洲本市内のレストランで働き始めた。
持ち前の明るい声と人懐っこさですぐに評判になり、「面白い店員がいる」と地元の人たちの間で話題になった。客が自分目当てで訪れるようになり、働く喜びを初めて実感した。
暗闇に閉じこもっていた時間が嘘のように、心が晴れていくのを感じた。

 この頃、同僚と「一緒に何かやろう」という話になり、洲本市の大浜海岸で朝のヨガイベントを企画した。講師を呼んだり、バーベキューもしたりして1ヶ月は続けられたが、継続的な集客が難しく、それ以降は続かなかった。

 「でも、あれはめっちゃ楽しかったな」

 自分の足で立つ。これが、その原体験と言える経験となった。

 その後、呉服屋に転職。浴衣の販売に注力して、新人ながら目標達成率トップを叩き出した。
しかし、どれだけ成果を上げても「会社の駒でしかない」と悟った瞬間、情熱は一気に冷めてしまった。次第に「もっと広い世界で挑戦したい」という思いが膨らんでいく。

 そうして24歳のとき、親戚のいるスリランカでのビジネスを志し、資金調達のために東京へ出た。
地元の人たちからは、数人を除いて、みんなに後ろ指を刺された。でもむしろその逆境が、自分をより焚き付けた。
上京後はバーやキャバクラで寝る間を惜しんで働いて、3ヶ月後、スリランカへの渡航を果たす。
現地で街を歩き回る中、次々とビジネスの種を見つけていった。

 「まちなかに動く広告がない」
そう気づいて思いついたのがラッピングバス広告。印刷会社に試作を依頼し、民間バス会社に持ち込むところまで進めた。
また、日本では当たり前のノベルティ文化がないことに気づき、暑い国にうちわを導入すれば注目を集められるはずと考えた。
さらに、現地の人々が自撮り写真を携帯電話の待ち受け画面にしている習慣があることを発見し、プリクラ機を日本から輸入するアイデアも浮かんだ。

 一気に、波に乗れそうな予感がした。

 「地元の人にも、東京での知り合いにも、バカにされながら日本を発った。その人らを見返してやるっていう思いがあったから、ビジネスの感覚が研ぎ澄まされてたんやと思う」と当時を振り返る。

 だが、ビザの期限切れや信頼していた人物との金銭トラブルで、夢半ばに帰国せざるを得なかった。
東京に戻り、再びスリランカに渡ってビジネスを実現させるためにトリプルワークで資金を調達。その後も、いち早く戻らねば、と焦っていた。だから知人に持ちかけられたうまい話に乗ってしまい、貯まった資金を失った。

 「ほんまアホやった。もう一回スリランカに行くことも諦めなあかんくなって、悔しかった」

 一方、トリプルワークの一つだった営業会社での成績はグングン伸びていた。管理職として率いたチームは社内随一の成績を上げ、やりがいがあった。
だがここでも不運は重なる。会社から副業を疑われ、退職に追い込まれる。
ただ、それをきっかけに仲間とともに東京で営業会社を立ち上げ、さらに活動の幅を広げていった。


◼️モヤモヤさえも、経験。

 しばらくして仲間のひとりが「飲食事業をやりたい」と言い出した。東京で挑戦するよりも地元の方が勝算があると考え、2022年、淡路島で「まぜそば まるきん」を開業。物件探しから決定までわずか数日。結婚したばかりの妻とともに、再び故郷に根を下ろした。

 「当時は東京に住んでいて一人で淡路に来てたので、すぐに帰るつもりでした。でも知り合いや友達がたくさん店に来てくれて、なかなか帰れないでいるうちに、妻が淡路に来て。そのままこっちに住むことになった(笑)」

ピリリと辛い出汁によく絡む太麺が特徴のまるきんの台湾まぜそば。鼻腔を抜ける爽快な香りと、とろっと濃厚な卵黄が食欲をそそる。

 2024年になると、状況がまた一変する。一緒に事業を進めていた仲間が独立していき、一人になったのだ。

 「20代から32歳は、結婚も含めて全てがめっちゃ速かった。でも、みんながおらんくなってから一気に何事も遅くなったって感じかな」

 現在は4つの事業を同時に回す日々。困っている人がいたら放っておけない自分の性格も相まって、かつて描いた「自由な時間を増やす」未来からは程遠い。

 「やっぱり仲間がいなくなったのが一番大きい。どの事業も、『こうすればうまくいく』 っていうビジョンは見えてるんやけど、一人じゃそこに着手できない。
いや、できるけど、そこにも手をつけてしまうと、今でもほとんどない自分の時間がより削られるっていうジレンマがある」

 この現状を打破できるのは、「人材」だということもわかっている。

 新たな右腕を獲得することで、うまく回り始めるだろうという予測はできている。
「ただ、それでもやっぱり、今の事業は4人で始めたことやから。それ以外の人とじゃ無理やろうって思ってしまっている部分もあって、そもそも人材を探そうとしてない自分もいる」と打ち明ける。

 そんな中で、モチベーションは揺らぎ続けている。
当初描いた理想とはかけ離れた現実。従業員との関係性に悩む日々。実は今も実現させたいと思っているスリランカでの事業構想──。

 様々な思いが交錯して、胸の内のモヤモヤが晴れることはない。

 それでも金岡さんは「このモヤモヤさえも、経験としては意味があると思ってる」と言い切る。

 「バカにされながらもスリランカに行ったり、お金を盗られても諦めなかったり。これまでいろんな経験をしてきたから、今がある。
だからこそ、今の悩んでいる状態さえも、いつか活かせる時が来る。
そう思えているところは、あるかな」

 迷いのただ中にありながら、それをも前向きに捉える。
多くの挑戦と挫折を繰り返してきたからこそ、その言葉には真実味があった。

【関連サイトURL】

https://e-portline.com/marukin/?fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAAadQZkarsZine2kNhRODLlkgIS7iTx_-RisR7b1njDEqSHy8C9Faj7gNS7merA_aem_fmz2M2PK3RG-nv6wwDu_7Q

https://mintame.co.jp/

https://inamotocar.jp/

https://e-portline.com/hp-seisaku/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です